2019年11月に江井ヶ嶋蒸溜所を訪問した。江井ヶ嶋蒸溜所に初めて伺ったのは、2006年冬のこと、スウェーデンのウイスキーライター、ウルフ・ブクスラッドとであった。ウルフは『Japanese Whisky』という本の執筆のために来日していたのだ。その時対応してくださったのが、平石社長であった。取材の最後にシェリー樽のサンプルを飲ませていただいた。ピーティでシェリー樽の主張が強く、インパクトがあった。興味深く感じ、シングルモルトのリリースを勧めた。その当時、蒸溜所はホワイト・オークという名の廉価なブレンデッド・ウイスキーしか販売していなかった。そのことがきっかけで、2007年9月にあかし8年が発売された。残念ながらそれは、試飲したシェリー樽のサンプルではなかったが、そのシェリー樽のウイスキーは、その後シングルカスクとしてリリースされた。それ以来、何度も蒸溜所に伺っている。
今回も平石社長にご案内いただいた。蒸溜所の建物の目の前に立つと、それまでWhite Oak Whisky Distilleryと入り口に書いてあったのが、Eigashima Distilleryとなっていた。外国人の見学者に分かりやすくするため、ということだった。蒸溜所の外には、入れ替えたばかりのポットスチルの上部とコンデンサーが置いてあった。これはかつて、奈良に1963年まであったシルバー・ウイスキー蒸溜所のものである。今回、これらを三宅製作所に新たにつくり替えてもらった。下部はもともと三宅製作所のものだったので、ポットスチルは上から下まで三宅製作所ということになった。
さて、新しいポットスチルを見せていただいたあとに、サンプルのテイスティングをさせていただいた。そして選んだのが、樽番号61791。これは江井ヶ嶋酒造の山梨にあるワイナリーがカベルネ・フランの熟成に使ったリフィル樽で、1年以上フィニッシュしたものである。フィニッシュする前に、その樽に入れたのは、3年物のバーボン樽を中心に、日本酒樽、シェリーブランデー樽、テキーラ樽などの原酒をヴァッテッドしたものだった。2014年から2017年にかけては、麦芽のピーティングレベルは、10ppmであった。それまでは5ppmであった。また2018年からは、ノンピートか60ppmのヘビリーピーテッドの麦芽しか使用していない。この樽に使われたのは、4年間だけ使用された10ppmの麦芽でつくられたものなのだ。
このサンプルは、『ウイスキー・ライジング』の著者、ステファン・ヴァン・エイケンにもテイスティングしてもらい、ゴーストシリーズのNo.14としてリリースすることとなり、ラベルに月岡芳年の「新行三十六」の版画、「老婆鬼腕を持去る図」を使用した。
やや高いピーティングレベル、複雑な原酒構成、カベルネ・フラン樽のニュアンスなどが、このウイスキーのフレーバーに重厚な特徴を与えている。アルコール度数は62度と高いが、じっくりストレートで味わってほしい。
ゴーストシリーズ・あかし-カベルネフランカスク- 販売ページはコチラ
2020年4月執筆
文/山岡秀雄、写真/山岡美佐子